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山口地方裁判所 昭和37年(行)5号 判決 1966年4月18日

山口市大字道場門前四一番地

原告

株式会社杉本運動具店

右代表者代表取締役

杉本耕作

右訴訟代理人弁護士

大本利一

山口市大字今道

被告

山口税務署長

坂本正作

右指定代理人

川本権祐

鴨井孝之

久保田義明

石田金之助

渡辺岩雄

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一、当事者の申立

一、原告

被告が原告に対し昭和三七年四月三〇日付でなした原告の昭和三五事業年度分(自昭和三五年三月一日至昭和三六年二月二八日)法人税確定申告に対する更正処分および同年九月二九日付でなした右確定申告に対する再更正処分(加算税賦課決定処分を含む)ならびに昭和三七年四月三〇日付及び同年九月二九日付でなしに昭和三六年分源泉徴収所得税の各賦課決定処分(加算税賦課決定処分を含む)は、いずれもこれを取消す。

訴訟費用は被告の負担とする。

二、被告

原告の請求はいずれもこれを棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

第二、原告の請求原因

一、原告は、昭和三五事業年度(自昭和三五年三月一日至昭和三六年二月二八日以下同じ)の法人税について青色申告書の提出を承認されていたものであるが、同年度分法人税について昭和三六年四月三〇日被告に対し青色申告書をもつてつぎのとおり確定申告をした。

(1)  課税所得金額 八二六、五〇〇円

(2)  法人税額 二八三、四〇〇円

二、被告は、原告のなした右確定申告につき昭和三七年四月三〇日付で左のとおり更正処分をなしたうえ同日付で新たに原告に対する昭和三六年分源泉徴収所得税等賦課決定処分をなした。

(イ)  更正処分

(1) 課税所得金額 三、〇〇一、五〇〇円

(2) 法人税額 一、〇四〇、三一〇円

(3) 過少申告加算税額 三七、八〇〇円

(4) 更正の理由(原文のまま)

「貫法人備え付けの帳簿書類を調査した結果、所得金額等の計算に誤りがあると認められますから、次のように申告所得金額に加算減算して更正しました(以上不動文字)。

加算金額

低価譲渡(有価証券) 二、一七五、〇〇〇円

加算合計 二、一七五、〇〇〇円

(ロ)  昭和三六年分源泉徴収所得税等賦課決定処分

(1) 源泉徴収所得税(本税) 六四三、八四九円

(2) 同加算税 一六〇、七五〇円

三、原告は、右両処分を不服として昭和三七年五月二九日被告に対して再調査請求をしたところ、同請求は同年六月一二日原告の同意のもとに訴外広島国税局長に対する審査請求として取扱われることとなり(法人税法三五条三項)、同局長は同年八月一日付で右請求をいずれも棄却した。

四、ところが、被告は、自らなした前記更正処分につき昭和三七年九月二九日付で左のとおり再更正処分をなしたうえ同日付で新たに原告に対する昭和三六年分源泉徴収所得税等賦課決定処分をなした。

(イ)  再更正処分

(1) 課税所得金額 四、一六〇、九四八円

(2) 法人税額 一、四八〇、八八〇円

(3) 再更正による過少申告加算税額 二二、〇〇〇円

(4) 再更正の理由(原文のまま)

「貴法人備え付けの帳簿書類を調査した結果、所得金額等の計算に誤りがあると認められますから次のように申告書に記載された所得金額等に加算減算して更正しました(以上不動文字)。

加算金額

1 損金計上源泉徴収加算税額 四、四〇〇円

2 株式会社美津濃の株式低価譲渡否認 一、〇七二、五〇〇円

(期末未払配当金にあてた分)

調査額 七〇〇円 株数 一、六五〇 一、一五五、〇〇〇円

法人計上額 五〇円 〃 一、六五〇 八二、五〇〇円

差引誤認額 一〇七二、五〇〇円

3 受取配当金(株式会社美津濃)計上洩れ 二九、七〇〇円

三、三〇〇株 単価一〇円 源泉所得税一〇パーセント控除

4 個人負担経費損金計上否認 五二、八〇〇円

内訳 町内会費 婦人会費 四、八〇〇円

支払地代家賃の内個人負担相当分 四八、〇〇〇円

合計 一、一一五九、四〇〇円

(ロ) 昭和三六年分港泉所得税等賦課決定処分

(1)  源泉徴収所得税(本税) 四六一、三一〇円

(2)  同加算税 一一五、二五〇円

五、原告は、前項記載の各処分中再更正処分の理由の中(4)の1、4記載の各事由およびその金額については認めるが、その余の部分はすべて不服であるので昭和三七年一〇月二七日付で被告に対しこれが異議申立(再調査請求)をなしたところ、同申立は原告の同意のもとに広島国税局長に対する審査請求として取扱われることとなり、同局長は右再更正処分に対する審査請求を昭和三八年五月一日付で、右源泉徴収所得税等賦課決定処分に対する審査請求を同年四月五日付でそれぞれ棄却した。

六、被告のなした前記更正および再更正の各処分ならびにに両度にわたる源泉徴収所得税等賦課決定処分は、原告が訴外美濃株式会社(以下訴外会社という)の株式を取得していたこと、原告がその配当金を受取つていたこと、原告が右株式を訴外杉本耕作(原告代表者個人)へ低価譲渡したことを理由とするものである。然しながら、右各処分には左の如き瑕疵があるからいずれも取消しを免れない。

(イ)  形式的瑕疵

前記更正および再更正の各処分の通知書に記載された更正および再更正の各理由は、国税通則法二八条二項の要求は満たしているとしても、法人税法三二条所定の記載としては不充分である。青色申告に対する更正処分は、申告者たる原告に対し納得のゆく程度に処分の妥当性を明示し、もつてその公正さを明瞭ならしめるものでなければならない。右各処分は法人税法三二条に違反している。

(ロ)  実体的瑕疵

原告はこれまで美津濃株式会社の株式を取得したことは全然ない。従つてこれあることを前提とする被告の右更正処分および再更正処分ならびに両度の源泉徴収所得税等賦課決定処分は事実を誤認してなした違法な処分である。事実は左のとおりである。

(1) 杉本耕作(以下杉本という)は大正一二年春頃から山口市において引続き約三〇年間運動具類販売業を営んで来たが、昭和二六年一二月二七日同人を中心とした株式会社(原告杉本運動具店)に組織かえをした。従つて原告は税法上の同族会社である。

(2) 杉本は個人企業時代たる昭和二四年四月一三日、取扱商品の仕入先である美津濃株式会社の発行の株式三〇〇株(額面五〇円の記名式普通株式)を取得してその株主となつていたが、原告会社設立後右三〇〇株に対するものを初めとして別紙第一表のとおり、右訴外会社より増資新株の割当を受けたので毎回これを引受け、その払込みに要する金員を同人が原告の株主として将来原告より受くべき配当金を目当てとしてその都度原告から借受けて払込みを完了し、昭和三六年二月二八日右借受金を完済した。

(3) ところが、原告の会計係であつた訴外藤田土典は、会社経理事務殊に株式処理事務の知識経験に乏しかつたため、原告の杉本に対する右各貸付金は原告帳簿の仮払金科目に記載すべきところを誤つて出資科目に記載し、又杉本個人の取得した右各新株の払込金額を誤つて原告の出資内訳書に記載した、

(4) 原告代表者である杉本は、右藤田土典が誤つて帳簿整理をしていることを昭和三五事業年度の決算に当つて発見し、直ちに昭和二八年以来原告の経理顧問である訴外山根三郎(公認会計士兼税理士)の指示を仰ぎ、昭和三六年二月二八日、右出資科目に誤記されていた貸付金を仮払金科目に記載して科目訂正をなし、同時に昭和三五年度出資内訳書に「相手方先、美津濃、金額二二五、〇〇〇円」と記載されていたのを削除し、原告の同年度に関する昭和三六年四月三〇日の定時総会において、出席株主の全員一致によりこれが承認を得た。

(5) よつて、原告は昭和三五事業年度分法人税確定申告(青色)において前項記載のとおりの科目訂正による申告をなしたところ、被告は昭和三七年四月三〇日付の更正処分において右第一回ないし第三回の新株につき原告より杉本への低価譲渡と誤認して所得金額および法人税額を更正し、且つこれを賞与と誤認して同日付で源泉徴収所得税等賦課決定処分をなし、更に昭和三七年九月二九日付の再更正処分において右第四回の新株のうち一、六五〇株につき、第一回ないし第三回の新株と同様原告より杉本への低価譲渡と誤認し、且つ美津濃の株式配当金計上洩れ等があるとして再び所得金額および法人税額を再更正したうえ、これらを杉本への賞与と誤認して同日付で新たに源泉徴収所得税等賦課決定処分をなしたものである。

(6) しかし、原告は杉本との間に右第一回ないし第四回(第四回については一、六五〇株)の新株につき裏貸その他いかなる方法による譲渡契約をも締結したことはない。

のみならず、仮りに被告の右認定にそう低価譲渡の事実が認められるとしても、先譲渡は商法二六五条の自己取引に該当するところ、これについて同条所定の原告取締役会の承認は与えられていない。同条に違反する取引は無効であり、ひつきよう右低価譲渡の認定は許されない。

第三、被告の答弁

一、請求原因第一項ないし第五項の事実は認める。

二、同六項の事実中、(イ)の各更正処分の理由が不備である旨の主張、(ロ)のうち原告が美津濃株式会社の第一回ないし第四回の増資新株を取得したことはなく、その株主は個人たる杉本であつて原告はその帳簿整理を誤つていたためこれを訂正したに過ぎず、従つて、原告は石増資新株を杉本へ譲渡する旨の契約をなしたこともない、又右譲渡について原告会社取締役会の承認も存せず、被告のなした更正処分、再更正処分および両度の源泉徴収所得税等賦課決定処分はいずれも事実を誤認してい旨るの主張は争い、その余の事実は認める。

第四、被告の主張

原告主張の更正処分および再更正処分ならびに昭和三七年四月三〇日付および同年九月二九日付源泉徴収所得税等賦課決定処分は、いずれも左のとおり違法になされたものであるから何ら取消されるべき筋合のものではない。

一、美津濃株式会社と株式低価譲渡否認について

1  原告は、請求原因第六項(ロ)(2)記載の表のうち、第一回ないし第三回増資新株を同表記載の払込金額を支払つて取得し、第四回増資新株のうち一、六五〇株を払込金額八二、五〇〇円を支払つて取得していた。尤も右第四回の割当を受けた新株は親株三、六〇〇株に対する二分の一の一八〇〇株であつたが、右親株の中には杉本が昭和二四年四月一二日取得した三〇〇株が含まれていたので、その分に対する新株一五〇株を除いた。

なお、被告がその真の株主は原告であると認定した根拠は左のとおりである。

(1) 増資株式(第四回の一五〇株を除く)の払込金の支払いを原告がなしていること(尤も右新株はいずれも杉本の個人名義になつているが、これは原告会社が杉本個人を中心とした法人であり、しかも増資新株の割当の基となつた親株(三〇〇株)が杉本の個人名義になつていたことなどの事情から原告への名義変更をしなかつたまでである。)。

(2) 右増資新株は原告の資産として原告の帳簿に計上され、これに基いて法人所得を計算して被告に申告していたこと。

(3) 右増資新株の配当金は原告が受取つていたこと。(原告は昭和三四事業年度以前の事業年度において同年度迄に発行された右増資新株の配当金を毎期の収入として原告帳簿の雑収入勘定に記載し且つ毎期の損益計算書にも収益として計上しておりいずれも毎決算期毎に株主総会の承認を得ている。しかも、原告は昭和三二事業年度以降昭和三四事業年度の毎期の法人税確定申告書において、右株式の受取配当金について法人税法九条の六により益金不算入とする旨を記載し、右配当金に対して徴収された源泉徴収所得税は法人税法一〇条により原告の法人税額から控除すべき所得税額であると明記しているほか、右確定申告書の内訳明細書にも右株式が原告の所有であることを記載している。)。

(4) 原告は訴外山口信用金庫から事業資金を借入れるため右増資新株を別紙第二表のとおり担保に供していること。

(5) 原告代表者である杉本は右増資新株の配当金を自己の収入として申告していないこと。

2  原告は、右第一回ないし第三回の増資新株三、三〇〇株を前叙のとおりその資産として原告帳簿の出資金勘定に計上していたが、昭和三六年二月二八日帳簿価額一三五、〇〇〇円のまま杉本に対する仮払金勘定に振替い処理してる。これは原告が右増資新株(第一回ないし第三回)を原告の出資金勘定から除外して代りに杉本に対する一三五、〇〇〇円の仮払金(金銭債権)を取得したことを示すものであり、それはとりもなおさず原告が原告の資産である右株式を代金一三五、〇〇〇円で杉本に譲渡したことを示すものである。

原告は、右第四回の増資新株につき原告会社と杉本両名の払込金合計九〇〇〇〇円を一括して昭和三六年二月一〇日払込むに当り、右払込金を杉本に対する仮払金として帳簿整理しているが、右増資新株の割当は杉本が株主である三〇〇株と、原告が株主である三三〇〇株に対してなされたものであるから、原告会社に割当てられた一、六五〇株に対する八二、五〇〇円の払込みを杉本に対する仮払金としたことは、第一回ないし第三回の増資新株の場合と同様杉本が原告の右株式一、六五〇株を八二、五〇〇円で譲受けたことを示すものである。

3  右譲渡時の右株式の時価は一株当り七〇〇円であつたから、譲渡株数四、九五〇株の合計は三、四六五、〇〇〇円相当であるのに拘らず、原告はこれを著しく低簾な価額合計二一七、五〇〇円で譲渡していることになるので、その差額三、二四七、五〇〇円につき、被告は昭和三七年四月三〇日の更正処分において二、一七五、〇〇〇円を、同年九月二九日の再更正分において一、〇七二、五〇〇円を否認してそれぞれ益金に加算した、

二、受取配当金計上洩れについて

原告は昭和三五年四月頃その株主であつた前記第一回ないし第三回の増資新株三、三〇〇株に対する配当金二九、七〇〇円に関する帳簿記載を脱漏していた。このことは昭和三六年二月一日に原告が取得した前記第四回増資新株については原告帳簿に記載されているところから、右受領事実につき記載のないのはそれを脱漏したものと認めるのほかはない。よつて被告は右金額を原告の益金に加算し、右配当金は原告代表者である杉本が原告からその頃これを受領したものと認定した。

三、源泉徴収所得税等の賦課決定処分について

前記株式の譲渡価額と時価との差額合計三、二四七、五〇〇円と受取配当金計上洩れ二九、七〇〇円に請求原因第四項(イ)(4)の個人負担経費損金計上否認額五二、八〇〇円(原告自認)の総合計三、三三〇、〇〇〇円は杉本が原告から受けた経済的利益であり、これは当時の法人税法施行規則一〇条の三、四項に規定する賞与に該当する。右賞与の支払者である原告は所得税法三八条一項七号の規定により所得税を徴収すべきであるにも拘らずこれを徴収していないので、被告は源泉徴収義務者であるから原告から昭和三七年四月三〇日付で所得税法四三条一項の規定に基いて右総合計額のうち前記第一回ないし第三回増資新株の低価譲渡否認額につき六四三、八四九円の源泉徴収所得税を、同法五六条四項の規定に基いてこれに対する源泉徴収加算税一六〇、七五〇円を賦課決定し、更に同年九月二九日付で同様にして残余の金額に対する源泉徴収所得税四六一、三一〇円とこれに対する源泉徴収加算税一一五、二五〇円を各賦課決定したものである。

四、理由付記について

法人税三二条後段が更正の通知に理由の付記を求めている趣旨は青色申告書を提出した法人に更正の理由を了知させ、不服申立をすべきか否かの判断資料を提供させる点にあるのであるから、理由の記載としては、更正した金額はどの項目をどのように訂正した結果算出されたものであるかが判る程度に、訂正の項目、金額を明示すれば充分であるところ、原告主張の更正処分および再更正処分の理由は右の点を充分明らかにしているから同条に違反するものではない。

加えて、被告は原告主張の更正処分および再更正処分をなすあたり、原告と前叙株式低価譲渡に関して種々論議をしているのであるから原告にとつて右更正の理由は愈々明白である。

第五、原告の答弁

一、美津濃株式会社の株式低価譲渡否認に関する被告の主張について

1の主張は争う。第一回ないし第四回の増資新株の取得者(株主)は原告ではなく杉本である。被告の主張する如く、第四回の増資新株について杉本が株主であつた三〇〇株(親株)に対する割当新数株一五〇株を除くのであれば、その理は第一回ないし第三回の割当新株についても全く同一でなければならない筈である。

(1)の主張事実中、株式名義が杉本個人であること、第一回増資新株の親株が杉本株主の三〇〇株であつたことは認めるが、原告は右新株の払込金を払込んだことは一度もない。

(2)の事実も争う。

(3)の事実中原告の関係帳簿に被告主張の如き記載のあることは認めるが、右増資新株の配当金を原告が受取つていたとの主張は否認する。株主でない原告が配当金を受取る筈はなく、右帳簿の記載は前記訴外藤田土典が関係帳簿への記入を誤つたまでである。

(4)(5)の各事実は認めるが、被告の推断は失当である。

2の主張はすべて争う。

3の主張事実中、被告がの主張とおりの各処分をしたことは認めるが、その余はすべて争う。担保に供されている株式は担保に供されていないそれに比して価額が時価より相当低下することさえ忘れた暴論というべきである。

二、受取配当金の計上洩れについての被告の主張について

被告の主張はすべて争う。

三、源泉徴収所得税等の賦課決定処分に関する被告の主張について

個人負担経費損金計上否認額については認めるが、その余はすべて争う。

四、理由の付記に関する被告の主張について

被告の主張は争う。

五、原告および杉本に被告主張のような所得が存する場合の前記各税の税額が被告主張のとおりであることは認める。

第六、証拠関係

一、原告

甲第一ないし第八号証、第九号証の一の一ないし二一、同号証の二の一ないし二一、第一〇号証の一、二、第一一、一二号証、第一三号証の一ないし三提出。

証人藤田土典、同山根三郎、同藤井喜寿の各証言、原告会社代表者本人尋問の結果援用。

乙号各証成立認。

二、被告

乙第一ないし第六号証、第六号証の一ないし四、第七号の一ないし五、第八号証、第九号証の一ないし八、第一〇号証、第一一号証の一ないし七、第一二号証、第一三号証の一ないし八、第一四号証、第一五号証の一ないし七、第一六ないし第三四号証、第三五号証の一、二、第三六号証提出。

証人武田博、同坂根尊の各証言援用。

甲号各証成立認。

理由

一、請求原因第一ないし第五項の事実は当事者間に争いがない。

二、先ず原告主張の形式的瑕疵の有無について判断する。

法人税法三二条が青色申告書の更正通知書に理由付記を求めているのは税務署長の更正決定を慎重ならしめるとともに、申告者に不服申立をなすべきか否かの判断をする資料を与えようとするにあり、右理由記載の程度としては更正を相当とする具体的根拠を明確にする程度の記載があればたりると解すべきである。しかして当事者間に争いがない前記更正処分の理由の記載には有価証券を二、一七五、〇〇〇円低額譲渡したので更正したことが示されており、弁論の全趣旨によれば右更正処分のなされた昭和三五事業年度において原告が有価証券を譲渡したのは、本訴において問題となつている訴外会社の株式に外ならないことが認められるから、右理由中の有価証券というのが同会社の株式をさすことは当然原告に了知されるものと考えられる。また当事者間に争いがない前記再更正処分の理由の記載についても更正処分と同様右訴外会社の株式の低額譲渡否認などによる訂正であることが明示されているものと認められ、右更正処分、再更正処分ともその具体的根拠は右各記載によつて自ら明白であつて理由付記にについての同条の要求する要件を満たしているものというべきである。

三、杉本が大正一二年春ごろから運動具類販売業を営み、昭和二六年一二月二七日同人を中心とした同族会社(原告)に組織がえをしたが、個人企業時代の昭和二四年四月一三日取扱商品の仕入先である右訴外会社の株式三〇〇株(額面五〇円)を取得しその株主となつたこと、原告会社設立以後右訴外会社の増資新株の割当に対し杉本名義で別紙第一表記載のような引受、払込がなされたことは当事者間に争いはないが、右増資株式(第四回増資のうち一五〇株を除く)の取得者が原告であるか杉本であるかが争点となつているので、以下この点について判断する。

(一)  成立に争いがない乙第二二、二三号証、証人藤田土典、同武田博、同坂根尊の各証言によれば、原告はその資金によつて山口銀行の原告預金口座から右訴外会社に対する別紙第一表記載の各増資株式の払込をしたことが認められる。

(二)  成立に争いがない乙第七号証の二、三、同号証の五、同第八号、同第九号証の四、五、同号証の七、同第一〇号証、同第一一号証の三、四、同号証の六、同第一二号証、同第一三号証の四、五、同号証の七同第一四号証、同第一七ないし第二一号証、証人武田博、同坂根尊、同藤田土典、同山根三郎の各証言によれば、原告は昭和三四年以前の事業年度(各年度ともその三月一日から翌年二月末日まで)の各貸借対照表にその事業年度およびそれ以前に取得した第一回ないし第三回増資株式を原告の資産として計上し、毎期の株主総会でその承認を得ていたこと、原告は右各株式を取得以後昭和三六年二月二八日まで原告総勘定元帳の出資金勘定に原告の資産として計上していたことが認められ訴外山口信用金庫から事業資金を借入れるに当り右第一回ないし第三回増資株式及び第四回増資株式を別紙第二表記載のように同金庫に担保として質入れしたことは当事者間に争いがない。

(三)  原告が昭和三二ないし三四事業年度の損益計算書に右第一回ないし第三回増資株式に対するその事業年度の配当を原告の収入として計上し毎期の株主総会においてその承認を得ていること、右各事業年度の法人税確定申告書において右各株式の配当金を益金不算入とし、右配当金に対して徴収された源泉徴収所得税は原告の法人税額から控除すべき所得税額とする旨を記載し、右各配当をその帳簿に原告の収入として記載していたことは当事者間に争いがない。

(四)  ところで杉本がその所得税の申告にあたり、右訴外会社から受けた株式配当収入を同人の所得として申告していないことは当事者間に争いがなく前出乙第二一号証、同第二三号証、成立に争いがない第一五号証の二、三、五、第三三号証、証人武田博、同坂根尊、同藤田土典の各証言によれば、原告は同年二月一〇日右第四回増資一、八〇〇株の払込をなし、これを一旦原告総勘定元帳の出資金勘定に計上しながら同月二八日ごろこれを抹消し、右増資払込金九〇、〇〇〇円を杉本に対する仮払金として取扱うにいたつたこと、また同日右第一回ないし第三回増資株式三三〇〇株を帳簿価額一三万五〇〇〇円のまま原告帳簿の出資金勘定から杉本に対する仮払金勘定に振替処理し、昭和三五年事業年度貸借対照表においても右株式を原告の資産から除外していることが認められる。

以上の各事実によれば右第一回ないし第三回増資の株式および第四回増資株式のうち少くとも原告の保有していた三、三〇〇株に対し割当てられた一、六五〇株を取得したのは杉本ではなく原告であると認めるのが相当であり証人藤田土典、同山根三郎の各証言、原告会社代表者本人尋問の結果中右認定に反し右第一ないし第四回増資株式(第四回増資株式中の一五〇株を除く)は杉本が取得したものを原告が誤まつて帳簿に記載したものである旨の部分は前掲各証拠に照し措信できない。尤も右各増資株式がいずれも杉本名義になつていることは当事者間に争いがないが、右各増資株式は原告が杉本名義で保有する右訴外会社株式に対し割当られたものであつて、原告は杉本を中心とする同族会社で、右増資株式をことさら手数を履んで原告名義にしなくても別段支障がなかつたからであると考えられ、前出乙第一五号証の五成立に争いのない第二四ないし第二九号証、証人坂根尊の証言によれば右各株式のみでなく、原告の保有株(株式会社ラジオ山口、同山口銀行、同山専クリーニング、勢能体育用品株式会社の各株式、協同組合山口専門店会への出資)のうち勢能体育用品株式会社の株式を除いては全部杉本名義であることが認められる。

四、前示三の(四)認定の事実から判断すると、原告がその資産である右各株式を昭和三六年二月二八日代金一三万五、〇〇〇円で杉本に譲渡し、右第四回増資一、八〇〇株のうち少くとも従来から原告が保有してきた右訴外会社株式三、三〇〇株に対し割当てられた一、六五〇株もそのころ杉本にその払込金に相当する代金八二、五〇〇円で譲渡したものというべきである。

成立に争いがない乙第三四号証によれば、右訴外会社株式の昭和三六年二月二八日当時の時価は一株七〇〇円であつたことが認められるから右譲渡株式四、九五〇株の時価は三、四六五、〇〇〇円(右株式に質権が設定されていることによつて、価額の低下を来すものとは認められない)であり、原告はこれを著しく低い二一七、五〇〇円で杉本に譲渡したことになるからその差額三、二四七、五〇〇円について昭和三七年四月三〇日付更正処分によつてそのうち二、一七五、〇〇〇円を、同年九月二九日付再更正処分によつて一、〇七二、五〇〇円をそれぞれ否認し益金に加算し、また前出乙第三四号証成立に争いがない乙第一五号証の四、同号証の七によれば、原告は昭和三五年四月ごろ配当された前記第一回ないし第三回株式に対すを配当金二九、七〇〇円(源泉所得税額を控除したもの)の帳簿計上をしていないことが認められるから、右再更正処分でこれをも益金に加算し、右結果、原告の昭和三五事業年度課税所得額を四、一六〇、九四八円と認定し、法人税額を一、四八〇、八八〇円、過少申告加算税額を五九、八〇〇円(更正処分により三七、八〇〇円再更正処分により二二、〇〇〇円)とした被告の処分(課税所得額が右の額である場合の右各税額がいずれも前記のとおりであることは当事者間に争いがない。)はいずれも適法である。

なお原告は右譲渡について商法二六五条に定める取締役会の承認がないと主張するから判断するのに、証人藤田士典、同山根三郎の各証言、原告会社代表者本人尋問の結果によれば原告代表取締役である杉本の指示によつて前認定のような仮払金勘定計上による経理上の処理がなされたものと認められるが原告は杉本を中心とする同族会社であること前記のとおりであつてその取締役会も事実上同人の意のままになるものであつたことが窺われ、さらに前出乙第一五号証の二、三同号証の五証人坂根尊の証言によれば、原告株主総会は右取締役会の決議について作成された昭和三五事業年度の貸借対照表等計算書類の承認決議をしているところ、右計算書類には右株式譲渡を前提とする事実が記載されていることが認められるから、右譲渡について取締役会の承認があつたと認めるのが相当である。

五、そうすると、前記株式の譲渡価額とその当時の時価との差額合計三、二四七、五〇〇円と前記受取配当金計上洩れ二九、七〇〇円(原告と杉本との前記関係から推すと右金員が原告帳簿に計上されていない以上、原告から杉本に交付されたものが認められる。)前記当事者間に争いがない個人負担経費損金計上否認額五二、八〇〇円総合計三、三三〇、〇〇〇円は原告の代表取締役である杉本が原告から受けた経済的利益であつて当時の法人税法施行規則一〇条の三、四項に規定する賞与に該当するものというべきであり、右賞与の支払者である原告は所得税法三八条一項七号の規定により所得税を徴収すべきである。ところで原告が右所得税をその納付期限の翌日から三ケ月以上経過しても徴収納付していないことは弁論の全趣旨により明らかであるから、昭和三七年四月三〇日付で所得税法四三条一項の規定に基いて右総合計額のうち前記第一回ないし第三回増資株式低価譲渡否認額につき六四三、八四九円の源泉徴収所得税を、同法五六条四項の規定に基いてこれに対する源泉徴収加算税一六〇、七五〇円を賦課決定し、更に同年九月二九日付で同様にして残余の金額に対する源泉徴収所得税四六一、三一〇円とこれに対する源泉徴収加算税一一五、二五〇円を各賦課決定した被告の処分は(右の各所得が認められる場合の右各税額は当事者間に争いがない。)適法である。

六、よつて原告がその取消を求める被告の各処分にはいずれもなんらの違法もないから、原告の本訴請求を失当として棄却することとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 岡村旦 被判官 鈴木醇一 裁判官 竹重誠夫)

第一表

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第二表

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